学会運営 Advent Calendar 2019 初日
はじめまして,デンソーアイティーラボラトリの欅と申します.学会運営アドベントカレンダーの第一弾としてお話させて頂きます.第一弾なので個別の会議や委員の仕事の進め方ではなく学会運営の大枠の話をしておりますが,私の限られた経験に基づいてお話するため,分野内外の方からさまざまなツッコミがあるかと存じますので,適宜補足・訂正頂ければ幸いです.
背景
私の職歴を紹介しておくと,2014-2019 年までの 5 年間東京工業大学で助教として勤務し,今年の 4 月から現職に転職いたしました.助教時代にはそれなりに,現在はセーブしつつ学会運営に携わらせて頂いているので,今回の企画で話させて頂くのもよい機会かなと思いました.
私がこれまでに参加してきたコミュニティは,データベース,情報検索,自然言語処理です.学会の運営は国内会議も国際会議も大きくは変わらないと思っていて,運営委員の仕事は大きく分けるとプログラム委員とローカル委員に分かれると思っています.プログラム委員の仕事は論文の査読と採否論文の決定が中心であり,ローカル委員の仕事はそれ以外の準備全般です (異論・反論はいろいろありそう).以降の話は主にローカル委員に限定してお話したいと思います.
担当経験のある会議
- データベース系会議
- DEIM: 700-800 人規模.データベースコミュニティの全国大会
- WebDB Forum: 200-300 人規模.産学連携の毛色が強い
- SIGMOD-J: 10-30 人規模.トップカンファレンスに派遣した若手研究者の報告会
- 情報検索系会議
- SIGIR: 1000 人規模.情報検索のトップカンファレンス
- NTCIR: 100-200 人規模 (?).shared task 型の国際ワークショップ
- 自然言語処理
- YANS: 150-200 人規模.NLP 若手の会.学生の委員が多いのが特色
コミュニティごとにそれぞれ特性が違うものの,それを書くと怒られイベントが生じるかもしれないので,あえて書かないことにします.
担当経験のある委員
- ローカル (委員長)
- 学生スタッフ (圧倒的にこれが一番多い)
- 出版・印刷
- 会計
学生スタッフ委員の進め方や Tips に興味があれば以前書いたこの記事をご覧ください (本当ならこれのリンクしてアドベントカレンダー完成!でよかったかもしれない)
学会委員を引き受ける判断基準
これについては同意を頂ける方も多くいらっしゃるのではないかと思っていますが,学会委員を引き受けるかどうかは,誰と一緒に働くかで決めるのが一番よいと思っています.より具体的には,一緒に働く人とのコミュニケーションコストが低い場合 (仕事・連絡が早い,物理的にすぐ話せる) や,この人のお願いならどんなに無茶振りでも耐えられるという場合であれば引き受けてもよいのではないでしょうか.逆に,ボールを持っている人・意思決定者がなかなか返信しない,上の人が些細なことにまで口出ししてくる・ちゃぶ台をひっくり返す場合には,なるべく角が立たないように断るのが吉です.他の委員の人となりが分からない場合はまとも (だと自分が思う人) に聞きましょう.きっと価値観は近いはず.ただし,依頼を断れない・断りづらい場合もあるので,我慢するか (コミュニティから) 出ていくかしましょう.
断れない・断りづらい例 (一般論)
- 直属のボスや大御所の研究者からの依頼
- 依頼メールに「ボスにはもう許可もらってるから」と書かれている
- 気付いたら委員の ML に登録されている/CFP や Web などに名前が載っている
※ あくまでも一般論であり,欅の経験談を書いているというわけではありません.
学会運営委員をやらないと業界から干されるという話を聞いたことがありますが,これについては真偽不明です.少なくとも私は見たことがありません (生存バイアス?).
断るときの例文
- 穏便バージョン
是非ともご協力させて頂きたいのですが,○○月まで○○で多忙なスケジュールになっているため,担当させて頂くことでかえって皆様にご迷惑をおかけしてしまうのではないかを懸念しております.また別の機会に是非ご一緒させて頂ければ幸いに存じます.
- 後で恨みを買うかもしれないバージョン
是非ともご協力させて頂きたいのですが,○○月まで○○で多忙なスケジュールになっているため,担当させて頂くことでかえって皆様にご迷惑をおかけしてしまうのではないかを懸念しております.また別の機会に是非ご一緒させて頂ければ幸いに存じます.話は変わりますが,以前○○先生と○○学会で委員をご一緒させて頂いたときに,迅速に仕事を進められていて,大変感銘を受けました.適任が見つかることをお祈りしております!
- 二度と誘われたくないときバージョン
オレ ケンキュウ スル
イイン ヤラナイ
会場決め
ローカルとしての最初の仕事は会場決めです.規模が大きい会議だと本部 (とは) に事前に計画書を提出するので,実行委員長・ローカル委員長・プログラム委員長辺りの相談で決まっているかもしれません.ここでは,自分も会場決めに参加する場合にどういう観点で探すのがよいのか考えてみます.
検討項目
- 施設 (大学/ホテル・コンベンションセンター)
- 形式 (合宿形式/非合宿形式)
- 開催地・交通手段
- 会議の参加者数
- 最大パラレルセッション数 (使用部屋数に依存)
- 時期・会期日数
- (特に国際会議の場合) 食事や礼拝室などに対するケア
- 予算
もし会議運営に業者を入れているのであれば上記の条件に適切なホテルを推薦してくれる (ことになっています).例外はいくらでもあると思いますがあくまでも傾向について述べます.
施設
- 大学開催
- Pros
- 会場費が割安
- ローカル委員が会場について詳しいので動線を踏まえて適切な部屋割りを考えられる
- Cons
- (授業期間中だと特に) 部屋が押さえにくい
- 大規模会議だとプレナリ用の広い会場や懇親会会場がないかもしれない (プレナリセッションとは,オープニング・クロージングや招待講演など,全員が参加するセッションのこと.パラレルセッションの逆)
- 廊下/教室で飲食を提供できないなどのローカルルールがあるかもしれない
- 古い施設だとバリアフリー対応されていないことが多いかもしれない
- Pros
- ホテル・コンベンションセンター開催
- Pros
- 何かにつけてホテルやセンターのスタッフが手伝ってくれる
- 急な部屋や設備の要望に応えてくれるかもしれない
- 懇親会会場が備わっている場合が多い (移動があると時間がかかり,場合によっては移動手段の提供が必要になる)
- Cons
- 会場費が割高
- 下見・打合せが大変
- Pros
開催施設に関わらず,体感的には 300 人を超えるとプレナリ会場探しの難易度が急に上がる印象です.
形式
- 非合宿形式
- 参加者各自で宿の手配をする形式
- 大規模な会議の多くで採用されているのはこちら
- 合宿形式 (ホテルの場合)
- 夜遅くまで使える懇親会会場があることが多い (交流が促進されることが期待されていそう)
- 宿泊管理も必要なので労力は大きくなる
個人のしかも感覚的な意見ですが,ある一定数よりも参加者が多い懇親会は知らない人と話すよりももともとの知り合い同士で話すことが増える印象で,費用対効果について慎重に考えた方がよいのではないかと思っています.
委員長がすべきこと
他に書くことが思いつかないので,唐突ですが,委員長にこうして欲しいということを述べたいと思います.
- ビジョンを示すこと
ビジョンを示すとは,今回の会議はこういう新しい試みをしたいとか,こういうことに力を入れるとか,各委員の行動方針の道標になるものだと思っています.例えば私にとって最も思い出深い学会である SIGIR 2017 のビジョンは「参加者をもてなしたい!日本を満喫して欲しい!!」だったと思っていて,その点で一貫性があり仕事しやすかったと思っています (仕事の分量は多かったけど素晴らしいメンバーで楽しかったです).もしくは,学生の参加費を徹底的に安くする (SIGIR 2020 の方針) や,何なら徹底的に省エネでやろうとかでもよいと思います.
- リーズナブルな時間で意思決定をすること
決断しにくいことはいくらでもあると思いますが,時間切れになるまで決断を先送りにして事態が好転することはあるだろうか? (いや,ない)
- 労いの言葉をかけること
やはり委員も人間なのでこれがあるとないとでは全然違う気がします.
- 委員が失敗したときにネチネチ責めないこと
><
企業人になってからの心境の変化
コミュニティに対しての貢献の方法として,単に運営委員として働くだけではなく,スポンサーという選択肢があります.また,企業に転職してからは,自分でこの委員を引き受けることで会社に何かメリットがあるのか? という観点を備わりました.つまり,依頼を断ることに抵抗がなくなりました.逆説的に,助教時代は相手との人間関係で依頼を受けてたり,そもそも自分が委員をやるメリットが大学にあるのか考えたことがありませんでした.何かあるんですかね...?
いかがでしたか?
このエントリーでは学会委員を引き受ける基準や会場決めの検討項目について紹介しました!
keihigu さんからは「特定個人への攻撃はなし」と言われましたが,個人どころか何も批判せずに書きました!
偉い!!!!
よかったら皆さんも学会委員やってみてくださいね!
ここまで読んで頂きありがとうございました!